この記事はプロ野球とバントについて解説した記事です。
なぜ現代のプロ野球で、非効率だと証明されたバントが行われているのかを解説しました。
(※この記事は2020年7月に更新されました)
どうも、DKOです。
今回はプロ野球のバントについてのお話です。
皆さんはバントについてどう思われるでしょうか?
セイバーメトリクスからも「バントは非効率である」という事実があり、最近はプロ野球ではバントを見る機会は少なくなりました。
しかし一方で、2020年よりカープの指揮を取る、佐々岡監督などはバントを多様しているイメージがありますよね。
バントは悪手である圧倒的事実
一昔前まではノーアウト1塁であればバントは、セオリーと言えるほど当たり前でした。
しかし最近はバントは非効率であることが証明されています。
これは日経新聞の2020/1/14の「実は手堅くない送りバント 損益分岐点は打率1割」に載っていたデータです。
バントをする全ての状況で得点期待値と得点確率を計算しています。
まずは得点期待値を見てみましょう。
得点期待値は「何点点数が入るか」と考えてください。
バントをすると全ての場合において2点以上点数が入る期待値が下がってしまっています。
次に得点確率です。
得点確率は「1点以上点数が入る確率」です。
無死一塁、無死一、二塁を除いて全てのケースで確率は下がっています。
バントは「確実に一点を取る」というイメージがありましたが、その確実性すら多くの場面で下げています。
得点確率が若干上がったとしても、得点期待値は下がっているのでプラマイゼロが関の山といったところでしょう。
現代のようにホームランが多く出る時代において、2点以上取る確率を下げてまで微妙に1点を取る確率をあげることにどれほど意味があるのでしょう。
このように基本的にはバントはしないことが正しいと証明されているのです。
バントをしていいのは打率1割の打者
野球アナリストの蛭川皓平氏によると、強攻とバントの損益分岐点を「打率にして1割3厘」と結論づけている。
つまり1割3厘以上の打率を持つバッターはバントをすると非効率ということです。
ちなみにこの1割3厘という打率はプロ野球史上誰も記録したことのない記録です。
1938年春シーズンに、イーグルスの山田潔が記録した打率.107(112打数12安打)が最低記録ですが、この記録が現在ででることはまずないでしょう。
このようにバントをするときは打率1割のバッターか、「1点を取れば勝利」という限られた場面だけなのです。
アマチュア野球ではバントは有効
甲子園などでは、ウンザリするほどバントの場面が見られます。
ノーアウト1塁なら主軸以外は基本バントをする勢いです。
しかし、これは戦術的に間違っていません。
高校生などのアマチュア野球では打者同士、投手と打者で大きな実力差が出る場合があります。
打率5割や6割の打者がいるのであれば、そちらに打順を回した方がいいケースはあります。
また高校時代の松坂大輔投手や、藤浪晋太郎投手など明らかに実力がズバ抜けている投手相手だと、バントも有用でしょう。
さらに、アマチュア野球は肩を含めた守備も未熟なため、揺さぶりをかける意味でもバントは役にたちます。
現在のプロ野球ではバントは非効率ですが、アマチュア野球ではそれなりにバントは有効な作戦なのです。
経済学から見る、プロ野球で未だにバントが行われる3つの理由
ここまで書くと

理由1:「いつもと違う行動をして失敗すること」を怖がるから
以下の文章を読んで見てください。
①Aさんは消費期限の切れた食品は食べません。しかしある時何となく消費期限の切れた食品を食べてお腹を壊しました。
②Aさんは消費期限を気にせず食べますがお腹を壊したことはありません。ある日いつも通り消費期限の切れた食品を食べるとお腹を壊してしまいました。
どちらの場合が「嫌だ」と感じるでしょう。
もちろんAさんですよね。
このように「いつもと違う行動をして失敗すること」を人間は極端に恐れます。
現代のプロ野球の監督たちは「送りバントが当たり前」という環境で育ってきています。
なので、同じ「点が入らない」という結果でも「バント(いつもの行動)をしないで無得点になる」ということを避けたいと思うのです。
また、バントをして無得点の場合は記憶には残らないのですが、バントをしないで無得点の場合強烈に記憶に残ってしまうのです。
野球は確率のスポーツなので、常に確率の高い方を選択するべきです。
しかし監督も人間なので「確率が高い戦術」ではなく、「失敗した時に悔いを残さない戦術」を選択してしまうのです。
理由2:人間は成功よりも失敗を重視するから
以下のゲームに参加するか考えてみてください。
「コインが投げて表なら1000円が貰える。裏なら1000円を失う」
どうでしょうか。おそらく参加しない人が多いでしょう。
このゲームは期待値で言えば0、つまり参加しても参加しなくても同じということになります。
しかし実際は参加しない人がほとんどでしょう。
「コインが投げて表なら2000円が貰える。裏なら1000円を失う」
これぐらいだと参加する人もチラホラ出てくるでしょうか。
数学的に言えば期待値は1000円なので、参加しない理由がありません。
しかし現実には参加しない人も少なからずいるでしょう。
このように、人間は成功することよりも失敗することに重きをおきます。
例えばデータによると無死一、二塁であればバントをすることで得点確率は若干上がります。
しかし、2点以上をとれる確率は大きく下がってしまいます。
ホームランが出やすい昨今のプロ野球を考えれば、2点以上取ることに重きをおくべきでしょう。
しかし人間の心理としては「2点以上を取る(成功)」よりも「1点も取れない(失敗)」ことを怖がってしまうのです。
成功の確率をあげるよりも、少しでも失敗のリスクを下げたいと考えるの人間の性質なのです。
理由3:低い損失を回避したいから
この図は行動経済学で有名な人間の利益と損失に直面した時の行動を4パターンに分類したものです。
例えば1では「100万円が95パーセント当たるクジを85万円で売った」場合が当てはまります。
経済学で考えると、たかが5%のリスクのために100万円のクジを85万円で売ることはありえません。
しかし人間は高確率で利益が見込めると、リスクを回避しようとしてしまうのです。
そしてバントのケースは④に当てはまるでしょう。
人間は先にも述べたように、失敗を強く意識します。
そのため、ノーアウト1塁で考えるのは「ダブルプレー は避けたい!」ということです。
打ってチャンスを広げることよりも、ダブルプレーのリスクを回避する傾向にあるのです。
もちろんこの考えは(経済学的には)間違っています。
ダブルプレーという最悪のケースを重視して、それ以外の確率を見ていないからです。
ダブルプレーという可能性を考慮しても、ノーアウト1塁でのバントは得点効率も期待値も下げることは既に証明されているので、「バントをする」という選択はあり得ません。
しかし残念ながら「100万円が95パーセント当たるクジを85万円で売った」というケースのように、人間は数字や確率を超えて「安心」や「後悔をなくす」ことに執着をしてしまうのです。
まとめ
現代プロ野球において、いまだにバントが無くならない理由は「人間がプレーをしているから」です。
どんなに数字でバントの非効率性を説明しても、失敗や後悔を恐れる気持ちには勝てません。
その証拠にバントの議論になると必ず出てくるのが「ダブルプレー」という言葉です。
ダブルプレーの確率は10パーセント程度で、安打や四死球の確率よりも低いです。
たった10パーセントの最悪の事態を避けるために、非効率なバントをするのはバカげています。
しかし人間という生き物は「最悪を回避したい」という強い気持ちがあるので、ダブルプレーの可能性を重視してしまうのです。
個人的には野球は確率のスポーツなので、とにかく高い確率の戦法を選んで欲しいと思っていますし、少なくともデータを理解し「自分は偏った見方をしている」と知った上で采配を監督にはして欲しいと思います。
それでは!